Lunch Time
時刻はお昼よりもいくらか前。
何気なく柳洞寺のあるお山の近くを通ったアーチャーは、確かに他のサーヴァントの気配を感じた。
そこはキャスターの結界にぎりぎり入らないような場所で、どうも彼女とは関係がなさそうな気がした。
というか、あの狡猾な女狐なら罠でもない限り気配なんてさせそうもない。
(罠の可能性もなくはないが…。)
とりあえず、赤の弓兵は様子を見にいってみることにした。
魔力で視力を強化する。相手がサーヴァントなら、霊体化にさほど意味は無い。
こちらが気配を感じているのだから、当然、あちらも気付いているはず。
お山の裏側、ふもとにあたる部分は林になっており、水源をその山にもつ川が見える…。
アーチャーは、そこに、確かに己以外のサーヴァントの姿を認めた。
「何だ、オマエか。何しに来た、アーチャー」
「それはこちらの台詞だ。何をしている、ランサー」
流石、振り向かずとも気付いたのか。
一応背後から近付いたものの、あとおよそ十数歩というところで呼び止められる。
そこにいたのは、ランサーのクラスを冠するサーヴァントであり、真名クー・フーリンであった。
半神半人の、アイルランドの大英雄。
その、大英雄は。
「何って、見りゃわかんだろ」
手には長い棒のような物。
その先端につけられた、青い糸のようなものが川の中に沈んでいて。
彼の座る傍らには、川から水を引いて作った生簀。
の、中には魚(えもの)が数匹。
「…釣り」
「正解」
大英雄は今、紛うことなき釣り人であった。
***
「質問を変えよう。何故釣りなどしているのかね」
「何故ってそりゃー、趣味でもあるんだが、これは。
でもまあ、やっぱ」
ばしゃっ、と音がしたと共に、ランサー手製の竿は獲物を釣り上げていた。
見事な鯉だ。60cmはあるのではなかろうか。
この時季に、こんな場所で、何故かはわからないがランサーの釣ったらしい生簀の魚たちは皆このような感じに立派だった。
釣りの名手、というのは単なる噂ではないようだ。
アーチャーは、ちょっと見惚れた。魚に。
「食うためだろー」
「ほう、自分でか?」
「まあな。必要は無いが…食事を取るのは好きだしなー。
…魔力の足しにはなるし」
「スズメの涙だがな」
「いーんだよ。…。
おいこら、物欲しそうな目で見んな。こりゃ俺の昼飯だ」
「だ、誰が」
魚をじっと見るアーチャーのその視線に機器を感じたのか、ランサーは素早く釘を刺す。
だが別に、アーチャーはランサーの魚を狙っている訳ではなかった。
ただ、こう思って見ていただけだ。
(何と調理し甲斐のありそうな新鮮な素材だろう…)
この男、どう育とうと根っこは主夫であった。
「だから、って訳じゃねえが」
今釣り上げた獲物で最後にするつもりだったのだろう、ランサーは竿をおいた。
「今、俺は闘るつもりはないぞ。用がないならさっさと行っちまいな」
「ふん、私も今は単なる偵察中の身でね。感謝するんだな、ランサー」
戦う気がないことくらいははじめから互いに知っていた。
殺気は、互いの存在に気付いた一瞬にだけ発せられ、そしてやる気なく消えたからだ。
かといって、敵と馴れ合うのも本意ではない。
まあ、アイルランドの豪快な槍のひとはそうでもないらしいが。
さっさとその場を去ろう、一応一般人(?)な弓のひとはそう思った。
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