Lunch Time(2)




 「ところで」

 思ったが。

 「その魚は、その、どうなるんだ?」
 「あぁ?コレ?」

 新鮮な食材の行く末は、ちょっと気になった。

 「だから、食うんだって」
 「生でか?」

 それはあんまりだ、とアーチャーは思う。あれだけ身の締まった、新鮮な魚を何の手も加えずに、生。
 いや、素材の味を活かした刺身という手もなくはない。しかし、北欧出身のこの男がそんな日本料理を知っているだろうか…。
 というか、この男なら頭からごりっと食べても何らおかしいことはないという気がする。

 「ばか、焼くんだよ」
 「焼き魚か…(まあ、悪くはないな)」

 よかったよかった、と思いつつもアーチャーの頭の中ではフルセットの献立が組み上がってゆく。

 (あれだけ数と種類があれば、あれとそれと、あー、あとこうして…)

 ふむふむと考える頭の中では一通りの調理工程すら流れている。
 そういえば、とアーチャーは思いを馳せる。彼が最後に包丁をとったのはいつのことであったか。
 彼のマスターである凛が衛宮の家に居候に行ってからは特に、必要ないからと台所には立っていない。
 第一、料理を自分で作って自分で食べても虚しいだけなのだ。

 「だから、やらねーって。そんな目で見るんじゃねえ」
 「ち、違う!私は必要もないことを進んでやるほど暇な身ではないのでね。
  ああ、そうとも。断じて」

 では邪魔をしたなと言って、今度こそ立ち去ろうとそそくさ身を翻したアーチャーは、だから決して料理をしたいという訳ではないと自らに言い聞かせていた訳であるが。

 「ほんとになー。ま、いいけど…さて」

 おもむろに、魚を取り出し、真剣な表情をしたランサーの、

 「アンサ…」
 「たわけっ!!」

 頭をばしっとはたきに引き返すことになった。

 「てめ…」
 「貴様ルーン魔術で直焼きにしようとしたな!?」
 「仕方ねーだろーが。調理道具なんてねえし、これって意外とよく焼けるし」
 「バカモノ、せめてはらわたくらい抜いて、串刺しにしろ!」
 「刃物なんて持ってねえし(手でも出来るけど)」
 「槍があるだろう」
 「アホか!それこそ食えるか!」

 はあ、と自らに冷静さを取り戻す為にか、ランサーからため息がこぼれる。
 そうして一息ついて、彼は最も的確なツッコミをするべく言葉を続けた。

 「一体何なんだ、アーチャー?なぜそうも魚に拘る」

 それは料理人として哀れな扱いを受ける食材への哀悼の念と、しばらく趣味から離れていた欲求不満じみたものから来る"やつあたり"のようなものであったが、どれも本人が認めたがらないために語られることはない。

 「べ、つに拘ってはいない…私のことよりランサー。
  大体どうして貴様が魚なぞ釣って食べるなんて真似をしてる?
  食事が摂りたければどこかのセイバーのようにマスターにたか…頼めばよいではないか」

 しまいには必死で話を逸らそうとする赤の弓兵さん。いつもの雄弁さはどこぞ、逸らし方も下手である。
 しかし、その苦肉といえる策は。

 「マスター…に、食事…?」

 ランサーの何かに引っかかったらしい。

 「冗談じゃねえ、ありゃ拷問だ…」

 青の槍兵は、顔色すらそのイメージカラーに同化している。
 目は虚空を見つめ、らしくもなく、彼は恐怖しているように見えた。
 その反応に、さて何があったのかと眉をひそめるアーチャーであったが、懸命に己が過去の聖杯戦争の記憶を引っ張り出してきてみれば…答えは明白であった。

 ランサーのマスターは、確か…。

 「マーボーは、もう嫌だ……」



***




 引き続き、此処ではない何処かを見つめたまま、表情を失くしたランサー。
 そんな彼に、食べちゃったのかーと、アーチャーは同情しながら己が涙するのを禁じ得ない。

 「俺が…」

 ランサーの、誰に向けているのかわからない独白のようなものは、尚も続く。

 「俺が食事を摂る、と言ったら、あの男はものすごーく嬉しそうに笑った…気がしたんだ」

 おそらく、それはあの、いつものような目が笑っていない不気味な笑顔だったのだろう。
 思えばそこで嫌な予感はしていたと、サバイバル(生き残り術)に長けた青の槍兵は語る。
 かのマーボー野郎の笑顔を思い出したのか、彼は心から苦そうな表情を浮かべた。

 「一度目で懲りた。二度目からは逃げ出した。
  毎食用意しやがるんだ…!」
 「心中お察しする」

 頭を抱えたランサーの肩に、アーチャーは自然と手を置いていた。
 怒りにか、それとも恐怖にか。ランサーの肩は微かに震えていた。

 そこで、意は決された。

 ― 投影、開始 ―

 ほんの少し集中しただけ、に見えたアーチャーの手には、次の瞬間今までそこになかったものが存在していた。

 「来い、ランサー」
 「なっ…アーチャー、お前…!?」

 言うが早いか、慣れた手つきでランサーの生簀から魚を全てバケツに移すアーチャー。
 水も既に川から汲んである。その動作は、疾い。

 そう、彼が投影魔術で創り出したのは、釣りにも家事にも便利なバケツであった。

 作業を終えた赤の弓兵は、それを呆気にとられて見ていた青の槍兵の、後ろで一つに結われた長い髪を引っつかむ。

 「ぃてっ」
 「行くぞ、こっちだ」

 ちょ、お前何すんだよ 引っぱんな あいたたたたと騒ぐランサーと、魚の入ったバケツを持って、アーチャーは今度こそ川を後にした。
 



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あれ?槍弓?のつもりで書いてった…はずでしたが。
びみょうに仲良しな槍と弓さん、お友だち未満ですか。

パソで打って見たら予想外に長いので、分けてUPして行きたいと思います<(_ _*)>



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